播州刃物(小野金物卸商業協同組合) / Banshu Hamono(Banshu Blade)

・問題点、課題

近年は、経済成長に伴い、ものづくり工場の海外流出や海外からの輸入商品の影響により、道具である刃物の世界では低価格競争化が進んできました。大きな問題は単価が安いので数を作らなければ生き残っていけず、職人は時間にも経済的にも余裕がないことから、弟子を育てることができず、後継者が極めて少ないことに課題がありました。さらに作った刃物は依頼主ごとにバラバラの名前で流通し、最終的にどこで売られているかもわからない“作りっぱなし”の市場になっていました。新たな人材を雇用するには、利益率を上げ、生産量を下げる必要がありました。

・デザインしたこと

 産地内の底上げを目標に、もっと職人たちが前に出て、産地として認知されるようなブランディングをはかりました。まず地域ブランド「播州刃物 / Banshu Hamono」を立ち上げ、商品の価値に見合ったパッケージに変更。価格はそれまでの3倍以上に設定し、未開拓の海外でブランディングと実績を積み重ねることを視野に、言語ではなく視覚的なアプローチでブランドビジュアルをデザインしました。目指したのは産地内の職人や関係者の意識改革でした。また事業主体の小野金物卸商業協同組合から委託される形で、海外展開などの実施を弊社で行ってきました。

・ストーリー

はじめは新しいハサミをデザインしてほしいという依頼でした。しかし播州刃物のブランドを立ち上げ、海外への入り口として東京の国際的な展示会に出展しました。そこでフランスのディストリビューターから声をかけられ、3カ月後にはパリの展示会に出展しました。その後も、精力的に海外の展示会に足を運び、フランスの他、ドイツやアメリカ︎など、10カ国以上︎の販路を開拓をしました。初めは展示会に出展することに半信半疑だった組合や職人の人たちも世界で認められていき、意識が少しずつ変化しました。研ぐという文化がない国では研ぎのワークショップを開催し、刃物と一緒に文化も伝えていくことを継続しています。

・変化したこと(結果)  

一番大きな変化は後継者を諦めていた職人の意識が変化したことです。そのことにより周りの人の意識も動きました。そして2015年に握り鋏の後継者がついに生まれたのでした。さらに、グッドデザイン賞を受賞したことにより、市や県に興味を持ってもらうきっかけとなり、後継者を支援する補助事業が地元行政にも誕生しました。受賞後、近い環境にいる地元の人たちの意識が変わりったことも大きな変化でした。現在では高くても売れるという播州刃物の実績により、業界に関わる方々の意識が変化したと感じます。職人からの値上げ等も各分野で進んでおり、未来へ継承していく前向きな流れが生まれています。しかし、後継者問題はとても深刻な問題であり、すでに間に合わない分野もあります。そうした中、弊社も同じ地域で仕事をする主体的な立場として2018年7月に後継者育成を目指した工場を立ち上げました。世界に誇れる本鍛造ができる職人さんの伝統を未来へ伝えていきます。


 
 
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